「今週の一言(いちげん)」第5話IT化には、業務改善IT化と自己満足IT化の2種類があります。
「あー、わかった。自分たちの特徴を内部で評価しすぎちゃうと、仕組みがどんどん煩雑になってしまうんだね。売上に特徴を出せば、利益をあげられるかもしれないけど、システムを複雑にしておカネかけても経費増えるだけなんだ。」
介護・リラクゼーションサービスを行う会社専務の一言です。
この会社では、地域密着の拠点を多く持っています。
人が事業の主役であるため事業であるため、人にまつわる経費・交通費・交際費・会議費などのボリュームは大きく、経理は情報を集めるのに苦心しておりました。
また、各事業所から急な資金の要望が来てさて、上司の決済はどうなっているのか?
電話のやりとりが多くて困っていました。
そこで社長さんは、今はやりのタブレット端末で使える職場にしようと考えました。
本部からは、厚生省や地域市役所からの情報を流せるし、各所長がタブレット端末に打ち込めば、売上や勤怠情報・経費精算といった経営に必要な情報がすぐに得られると考えたのです。
浮かない顔のIT担当者に、専務が「業務フローソフト進んでる?」と声をかけたところ、「昨年暮れからストップ状態」との返事が返ってきました。
現場から「何のためのソフトなんですか?」を、強い反発を聞いていた専務は、
まず、IT担当者の話を聞いてみようと思ったのです。
「あなたの思ったシステムが完成するとどんな状態ができあがるの?」
IT担当者から、返ってきた返事は、
「営業部門から反対があって、現場に落とし込んでないので何ともいえませんが、僕としては人事データベースをつくってからです。でもそのデータベースを使った給与ソフトは月額リースが50万円かかるんです。勤怠情報ソフトも含めると、ウ~ン、かかりすぎですかね~。」
「でも、このデータベースソフトは社長の稟議もおりてるし、、、。」
「市販のソフトは易いけど検証できていないし、システムコンサルタントのAさんにも相談しないといけないし、、、。」
と、なんとも歯切れが悪い。
そもそも、今回のシステム導入を一番期待しているのは、この会社の社長さんです。
若くて、パワーポイントやエクセルを使いこなし、常に自分のPCを持ち歩き、打ち合わせ中にも必ず 指先がキーボードを打ち込んでいます。
IT化を推進する経営者には、自分自身がITに強い方が多くいます。通信の進化は決断を迫る時間をますます短くさせました。スピードのある=決断の早い社長は、自身もITを道具として使っています。自分のスピードと一緒に皆も判断すれば会社の業績はもっと上がるハズなのです。
社長さんは、プロジェクト管理で、情報共有したいと考えていました。
専務さんは、勤怠情報・人の手配を見られるシステムがほしいと思いました。
常務さんは、客数と・お客様特性傾向をしりたいと思いました。
取締役会では「業務の改善を行って収益のアップを狙いたい」そのために社内業務フローIT化を推し進めると決議されました。社長からその任を託されたITシステム担当者は、期待に答えたいと、取締役会の意図を実現するたくさんのソフトを調べます。社長の意向だけなら簡単ダと思ったのに、承認をもらうのは社長だけじゃないと気づき出しました。
営業の実態を知らなくてはと思い、現場の担当者にその書き出しをお願いしました。
介護にもたくさんの業務フローがあります。加えてその業務につく人材はパート・アルバイト・派遣・正社員、勤務体系は正社員であっても10通りもありました。
営業所所長達はIT担当者の指示に冷ややかな反応を返しました。
「忙しいんです、俺たち!」
もちろん社長の命令であれば、従うのですが、彼らからすれば余分な業務。
仕事は遅々と進みません。それでも各部署の要望を取り入れようと駆け回ります。
現場それぞれの判断でよきようにやってきた=属人化を、そのままITシステムにのせようとすると膨大な例外規定をどんどん造ることになります。あれもこれもありの“お化けソフト”になっていきます。一生懸命努力して自己満足IT化のはじまりです。
専務はここでハタと気がつきました。
自分たちは他に無いような独自のサービスで、ここまでやってきたと自負していた。
だから、自分たち独特の大企業のようなシステムを立ち上げようと、IT担当者を採用して、コンサルタントまでいれた。
しかし今求められているのは、経費のシステムつくりだ。儲かるものではない。
業務フローの標準化できていないから、売上の集計にも、経費の精算にも、勤怠管理にも時間がかかっている。世の標準をまねれば、早く自分たちの問題点に気づけるだろう。
市販ソフトは、標準的な業務の流れを持っている。
これにあわせてくれと標準化を進めることも、一選択だ。
そこで冒頭の一言を話されました。
業務改善の目的は、ひたすら収益確保です。
どのような業務でも「こうしなさい」が「明確」になって、はじめてIT化ができます。
標準業務フローに改善を行った時、その結果は「明確に」数値で評価します。
改善の効果を捉える数値は何か。うまくいったときその数値がどのように変化しているべきなのか。それをはじめにきめておくのが業務改善IT化のルールです。
会社経営では、時間にも資金にも人材にも制限があります。だから期間を決め・改善する行動を数値化し・その数値で変化させたい収益目標を明確にしておく必要があります。数値で比較しない限り、その改善が本当に効果をあげたのかは確認できません。
後日、経理担当者は、名前入りの日付印を6個購入しました。
各部所長が、経費決済を承認する時に使う印鑑です。
“部署長マニュアル”をつけて配布されました。
専務は、市販業務ソフトの見積もりをとりました。業務改善の第一歩です。