「今週の一言(いちげん)」第29話説得されるより、納得したい。従業員もお客様も皆同じです。
「それは政党助成金のせいだ、国会議員が働かないせいだし、庶民の暮らしが分からない奴らの所為なんだ。税金は一度上がったら、絶対下がらない。国会議員の既得権ばっかりだ。見てみろ、共産党は爺ばっかしだし、公明党は与党だよ、社会党に至ってはいないも同然、だから手取りが少ないの。」
事務部門にやってきた工場長が、部下からの給与明細について質問があったと、
総務担当者に説明を求めました。
残業や、個別の手当を自分なりに計算して予算をたてていたしっかり者の部下から、なぜ先月より手取額が低いのか?問われたというのです。
この時節は、算定基礎やら、月額変更といった社会保険制度の改定の時期です。
社会保険料の仕組みで、どうやら社会保険料が上がり、手取りが減ったのです。
「算定基礎届けがどうとか、月額がどうとか、そんな仕組みは、説明できないよ。」
「なんで、手取りが減ったか?その理由がはっきりすればイイの。」
総務部の社会保険労務士は、一生懸命に説明します。
4月に昇級があって、この人は交通費が多くなっていて、社宅家賃も計算されて、、、
担当者が説明をすればするほど、だんだん工場長の顔がコワくなり、語尾がきつくなり、手もブルブル震えてきています。
下を向いたまま説明する担当の社会保険労務士は、下を向いたまま必死に説明を続けるしかありません。
部屋の雰囲気に気づいた社長が、席から立って、この話に割って入りました。
「それはさー、政党助成金のせいだよ、定額でお金の心配がないから、会議員が働かない、だから、庶民の暮らしが分からない。税金は一度上がったら、絶対下がらない。国会議員の既得権ばっかりだ。見てみろ、共産党は爺ばっかしだし、公明党は与党だよ、社会党に至ってはいないも同然、だから手取りが少ないの。」
書くとお堅い話ですが、ちょっと”寅さん風に”話してみてください。
話してる社長も、工場長も、総務の社会保険労務士も、周りの社員たちも、一斉に大笑いです。
社長は、続けます。
「オレだって、減っているんだぜ、こずかい。
おかーちゃんからは、社長なのにお金がないのはなぜ?と言われるし、社員の給与を上げたのに、手取りが少ない!だろう、オレは立つ瀬がないんだよ。」
「分かったの、原因はお国の所為、国会議員の所為、税務署の所為だ。」
「さーて、みんな一緒に別の国にいくか〜?北朝鮮も中国も韓国もオレはイヤだよ」
社員たちは、大笑いしながら、それぞれの部署・席へと戻っていきました。
釈然としない事を、これはこういう仕組みだから、と説明されると腹立たしくなる事があります。税金・社会保険料・公共料金などは、この分類です。
なぜこの金額が必要なのかはよくわからず、今月からこの料率です、と一方的に課されるので、腹立たしいのです。
こんなとき、無理矢理説明して説得しようとすると、感情がぶつかってしまいます。
なにせお金がなくなるのは、生命の危機に近いショックなのに、論理的にはこの方法が正しいですと説明されたところで、生き死にの時に法律など聞く耳は無し。
社長が持ち出したのは、共通の敵。
政党補助金が国会議員のおカネの不安を取り除いたように、手取額減少の不満を同じ政党補助金を持ち出して社長と従業員の共通の敵にしたのです。
お国もたまには悪者にして、笑える方向に話題を切り替えて見る。そこに納得が生まれます
「説明」・「説得」・「納得」
普段、説得しよう説得しようと嵩にかかっているノグチは大反省です。
納得してもらうには、相手の主張を包み込む大きな明快さが大事になります。
説明や説得の段階では、「よくわからない…だから、前に進まない事にしよう」と、頭の中で拒否のシグナルが既に出ているのです。
実は、お客様も同じです。説得されると「よくわからない…」から「…やめておこう。」
「明るい予測」が、商売には必要です。
予測が、明快な「絵」として描けると、「絵」を見たお客様は納得します。
その納得を、明快は言葉で伝えてあげると、「これ!おすすめ」とその言葉が広がります。
優秀な経営者たちを見ていると、必ず、言葉=決め台詞を持っています。
さて、社長さんは社員たちの大笑いの顔を見ながら、
「う〜ん、お客様にも決めの台詞が言えればな〜、不得意だからな〜。」
イエイエ、大丈夫です。周りが笑ったフレーズを集めてください。
社長さん独自の決め台詞が出来上がります。
それは、社長さんが従業員に伝える大きなノウハウです。マニュアルになります。
後日談です。
工場長は、朝礼で部下たちに、社長のこのエピソードを伝えました。
手取りが減る理由としてではありません。
工場長は、大きな視点でものをみる事の大切さをはなしました。
腑に落ちた時の嬉しさを話しました。
普段、接する時間が多くはない部下たちも社長さんに親しみを感じたようだと工場長も、嬉しかった理由を話しました。