「今週の一言(いちげん)」第9話経営者としてのお金の使い方、ルールと想い。
「4階の事務所が、全部この部屋に移転するって言うんですよ。4階の人たちは5名。こっちは10名。今でも一杯一杯だし、書類は入りきらないし、社長は、どうしたいんでしょうかね。」
T社は、ビル一棟を賃貸して店舗・事業所・スタッフルームと利用しています。
駅前の6階建てビルは、築10年ですが、手入れも行き届いて便利な立地です。
割に安い賃料で、一棟借りができた理由は、前賃借会社の仕様で建設したものの不動産不況で、撤退。その後入居者がなかなか見つからなかったためです。
T社社長さんは、同じ駅近くに数店舗の事業を行っていました。
従業員の行き来や、集金など、店舗間の異動は、短い時間ですが、数が多くなると半日仕事になってしまいます。
一カ所にまとまればいいねと話していたとき、折良く銀行不動産部の紹介で、このビルと出会いました。
1階から3階まで、今まで別別の店舗で営業していた事業所が入居しました。
4階は、スタッフルームや、会議室、ミーティングルームなど、社員が研修できるスペースに当てました。
5階は、外部営業を中心に行う事業所の入所。6階の一部が、事務管理部門です。
店舗移転を行ったとき、一番大変なのは、お客様をそっくりそのまま異動させる事。
今までの店舗と同じ売上が上がってほしいのですが、そこが難しい。
数店舗の合計金額がそのまま維持できてはいきません。
地域密着型の営業を行っていると、近いから「利用する」お客様は多くいます。
ホンの数百メートル歩けば、といってもそれはお店の言い分。
お客様にとっては、利用しない理由です。
さて、平米単価賃料が安くても、一棟丸々となると、それなりに賃料がかさみます。
メンテナンス費用も、造作改造費用もかかってきます。
ですが、売上が上がるのは、1階から3階まで。
5階はともかく、4階の社員用研修スペースは、見た目は良くても、利益は生みません。
月の半分も、利用している日が無いのです。
当初、喜んでいろいろなイベントを計画していた社員達も慣れてくると、イベント回数が減りました。
事業所が違っても、利用したい日は、皆似たような日程です。
1階から6階まで、全部に売上を上げるフロアにしたい!経営者の願望です。
お金は売上に結びつく事業にかける。
社長さんのお金の使い方ルールは、未来投資です。
社員にかけたくない、のではありません。
社員と一緒に何かしたい、のです。
4階の社員研修スペースには、一部社長室がありました。
会議室がありました。
利用するのは、社長と幹部と時折来社する銀行・会計事務所。
もったいない……のです。
では、自分が事務スペースに移動しよう!
不思議です。
移動しよう、と考えていたら、歯科医と出会いました。
歯科医は、店舗を持ちたいと話しました。
話はとんとん拍子に歯科医院がビルの中にできました。
さて、6階の事務スペースは、どうでしょう。
確かに書類の一部が段ボールの中にあって、段ボール箱は積まれたままです。
ですが、それぞれの机は皆収まって、事務作業は進んでいます。
「どうにかなるモノですね」
どうなるか、心配していた総務事務員さんは、にっこり笑って話し出しました。
「社長が、ただ自分の利益だけで進んでない事は、よく分かっていたのです。垣根がない方がイイ、そう社長が思っていることは。でも今までと違うことが急に進むと何か不安になって、そんなことしたらきっと事務所がダメになる、と決めつけていました。」
総務事務員さんは、地図を作り始めました。
部屋の中にある書類の地図です。
経営者が、お金をかける時には、未来の収益に繫がる投資かどうか、これがルールです。
ただ、いくら儲かるか?ではなく、そのルールには、社員が皆で一緒にやりたい事業ができている、やって楽しい事業を続けたい社長の想いがセットになっています。
一緒にやれる仲間がいなければ、社長自身も楽しめない、のです。