「今週の一言(いちげん)」第8話拝啓 社長さま、経営の目標が『経費の削減』でいいのでしょうか?
「売上が増えてないのに、税金が増えるのはおかしいでしょう!会計事務所が作ったこの決算書、間違だと思うので見てください。」
不動産業営むE社長さんが次期予算経営相談にこられました。
前々期、前期、当期の決算書を提示され、今年だけなぜか税金が多いのか分からないと、不満顔です。税金が多ければ、会計事務所を変えたいというのです。
E社長の経営する不動産会社は、もともと地主だった父親の物件管理から事業を立ち上げました。地域には地主の知り合いも多くおり、管理・賃貸紹介する、管理件数を多く抱えることができました。
駐車場や住宅の管理手数料は、一件あたりは少額です。
ですが、駐車場でも一物件あたり10台〜20台と数まとまればそれ相当の金額となります。アパート・マンションも一棟管理ではそれなりの金額になります。
その上、毎月定額収入となりますので、経営の安定化には一番です。
もちろん、E社長は不動産物件管理をパソコンでおこない、取引先の地主さんには毎月の管理情報・集金明細に加え、期末には税務申告がしやすいように一覧表を作成して提供しています。大手の不動産業者並みにITもつかって古い「不動産や」のイメージを払拭したサービスを提供しようとしています。
ここ数年、不動産経営は苦難の時代に入りました。
まず、若者の自動車離れです。
車にあこがれがない、車を所有したいという願望がない若者が登場しました。
当然、駐車場は空きます。
住宅も、少子化の影響で、借りる人たちが減少しています。
にもかかわらず、相続対策とやらで“10年間一括借り上げ”事業者がこれまた大量に新築集合住宅を乱立させています。
築後10年以上の物件には、声がかかりません。
E社長は、元々地主の息子。
他人の不動産で儲けるより、自分の物件なら丸儲けになると、20年前所有地に高級賃貸住宅を建てました。
当初は高い賃料でも居住空間の広さ、エントランスなど共用スペースの高級感から満室の状態が続きました。
築15年を過ぎると空室が出始めました。住民は高齢化して、若い居住者は増えません。
若ければ 高い賃料を払うより、同額の支出でマンションが買える時代です。
E社長が、収入が上がらない状況下で行ったのは、経費削減。
手始めに管理外注費の値下げ交渉です。銀行をかえて借入金の見直しをしました。
経費の削減額は年に600万円です。
税金は、利益に対して税率をかけます。
税金が多くなったのは、経費が減り、利益が増えたためです。
「社長さん、減らしたいのは経費ですか?それとも税金ですか?」と質問しました。
社長さんは、『どっちもに、決まっているじゃないですか!』と答えられました。
利益を出そうと、経費の削減に一生懸命になると、どのような支出も全て削減してしまおうとする経営者がいます。でる物を全部締めたら、お金は会社にたまって、経営はよくなると思い込むのです。確かに経費削減は、一時的にお金はたまります。
テナントからエントランスなど共用スペースが暗い感じがすると不満がでました。
切れた電球を取り替えるだけより、省エネ対応のLE電球にした方が明るいし、電球も長持ちだし、節電にもなる、と提案があったのですが、電気設備そのものから変更する工事となると100万の投資。金額が高いと取りやめました。
IT化は、不動産賃貸契約の方法も変えました。
「ネットの検索」は、実際の建物の見た目よりも「築年数」を評価します。
検索に引っかかる条件として「耐震基準」の記載を要求してきます。
賃貸物件とは離れた場所にいても、不動産店がしまっている時間でも、お客様が知りたいと思った時に提供する仕組みができました。
日本経済の発展は、間借りから賃貸、そして持ち家と居住環境を良くしたいという一億総員発展計画で進んできました。
間借り・賃貸、家主が主導権を握っていました。地主家主が、不動産業者にとってのお客様でした。でも今主流のお客様は、PCの前にいるネット検索している人たちです。
商売は、誰に売るかが、何よりも一番大事なポイントです。
誰がお客様か?ということです。
お客様がはっきりしていると、そのお客様へのアプローチの方法も見えてきます。
商売は、得意なお客様を相手にすることが基本です。
お客様を、PC前の人に設定するも、元々の地主家主に設定するもどちらも自由です。
問題なのは、E社長さん、ご自身がお客様になってしまったことです。
節税とは、経営者が「オレは、お国のお客様だ、だから税金を安くしろ」とお国に要求している状態です。パナマ文書の示す通り、税金から給与をもらっている一国の大統領でさえ、税金は払いたくないもの。税は誰しも嫌ですが、商売をするための場所代=税金をケチって、肝心要のお客様=国民の支持を失う構造は、商売とて同じです。