「今週の一言(いちげん)」第142話後継者に引き継ぎたいもの
「子供は引き継がないと思いますよ。リーマンのあと売上は低迷したままです。それともう一つ借入金ですよ。今は返すのは問題が無いんですけど、引き継ぐとすれば工場設備も新しくしなければならないし、そうすれば、借金を増やすし…。」
後継者に仕事を継いでもらいたい。
親の代からやってきた工場。
社長さんは、継いでほしいという想いはあります。
同業者の組合で、顔が合うとこの話が、よく話題に上ります。
優秀な子息は一流大学から勤め人へ。
そこを止めさせてまでも事業を継がせたいか?
本人の気持ち次第ですよ。
と、話しをするが、内心借金背負ってまで継いでくれとは言いにくい。
第一、お金の話しはしたことがない。
事業を拡大していく、設備投資をする、土地を買う、となれば銀行借入が普通です。
事業のお金の流れは、営業経費、仕入、設備投資、まず支払が先行します。
支払資金を全額持っているに超したことはないけれど、よくある話ではありません。
ご相談の社長さんも金融機関からの借入をしています。
借入している銀行で、相続相談会がありました。
決算書も、土地の謄本も渡してあるので、銀行が詳細な診断書を造ってくれます。
銀行の担当者の話では、株価はそれほど高くない。
土地は全部会社で使っているから、このままご子息が引き継げば、相続税の心配はしなくてもいいですね。
安心していいんだか、儲かっていないと言われているのか不安になる話しです。
そこで、気になるところを 質問してみました。
「たとえばだけど、息子が継がない。閉じてしまったらどうなるの?」
「いや~、社長そんなことはしないでしょう。あ~、息子さんは一流企業ですか?
社長の土地には借入の連帯保証債務がついています。
借り入れるときには貸してほしいから、二つ返事で承諾したものの、消えることはありませんでした。
完済しても、季節資金の不足があるかもしれません。
どうせまた借り入れするからと、枠は大きくとってしまっています。
仕事をやめても、土地の上にアパートでも建てて悠々自適な生活ができると、奥さんを説得して手に入れた土地。
その奥さんから、
「あなたもうすうす感じているとおり、悠々自適は無理そうですよ。」
と言われてしまいました。
工場の敷地になっている土地に、アパートは無理ですよ。
奥さんは、ご近所の不動産業者と親しくしている。
工場だとどうしても汚染土の問題が出るから、ちょっと…と言葉を濁されたという。
娘婿は、ウチの仕事に娘以上に理解というか興味があっていいんだけど、借金があってはね。
“引き継ぎたいもの“は、何ですか?
ウチの工場で造っている物はステンレス製品なんだけど、その技術はね…、
社長の造っている物は、製品だけではありません。
造っているものは、人に役立つ・社会に役立つ想いとよりよい製品への想いでした。
借金のこと娘婿さんに話したら、相手は社長をきっとますます尊敬しますよ。
話してください。
イヤダメ…だろう。
資料を造って、社長の手元に送りました。
会社の概要、今までの沿革、決算書を大まかにまとめたもの。
いわば、娘婿さんに見せる会社のパンフレットです。
資料を送ってから一週間ほどたったある日、社長さんから電話連絡を頂きました。
「恥を忍んで、話したよ。そしたら、協力したいと婿さんが言ってくれた。
ノグチ先生が背中を押してくれたおかげだ。ありがとう」
私が送ったのは、小細工をした決算資料ではありません。
簡略化した決算書と、社長の改善目標を年ごとに羅列した沿革資料です。
そして、一番大事な会社の社訓。
もちろん、借入金についても包み隠さず記載しました。
親しい関係だからこそ、包み隠さずが大事です。
何かを隠すと、どこかで不意にその何かが出てきてしまう。
他人なら許せることが、深い関係だと許せなくなるのが、人間関係です。
娘婿さんから礼状を頂きました。
詳細に見せてくれた、だから信用できました。
沿革資料が合ったおかげで、義父の話しがよく分かりました、と書かれていました。
自分を語らずに、いい業績だけ伝えようとすると、信頼をえられないものです。
信頼は、一番間違いないこと、社長自身のストーリーを飾らずに伝える事です。
“後継者に引き継ぎたいもの”は何ですか?
会社の沿革を書いてみませんか。
必ず、あなたらしい“後継者に引き継ぎたいもの”ができあがります。