「今週の一言(いちげん)」第93話同族会社の真実―お金がたまる一族の秘密
「借入は出来ましたよ、すぐにね。先生にお願いしたら銀行に紹介してくれて。
でもその時先生から言われたの、『借入さえ出来れば、返済するのはオレじゃないからね』そのとおりでした。偉い苦労しましたよ。
もう個人借入で土地を買うことは絶対しないと自分に誓いを立てました。
寝られない、仕事できない、女房に頭が上がらない、三拍子揃いましたからね。」
「共同で仕事をしないか?」と、同業で先輩と仰ぐ人から声をかけてもらった社長は有頂天になりました。
商売上手でお金持ち先輩の事業の仕方は、社長のあこがれでした。
朝から晩まで長時間労働で、なんとか売上を伸ばしていくのが自分の会社のやり方。
従業員に仕事を教え、お得意様に電話し、営業マンの尻を叩く毎日。
安定して、事業を拡大してきましたが、大きく儲かった感覚はありません。
ところが、その先輩は、たった一人で事業を回しており、従業員もいないのに、大きなお金が動いています。
面白く儲かっている人たちの話をよく聴かせてくれます。
いつかはこんな儲かる事業をしてみたいなあ。と思っていたところにこの話です。
嬉しくなって、すぐに「参加します。どうすればいいですか?」と返事をしました。
「共同出資だよ。6400万円の土地購入だから4人で一人あたり1600万だな。」
土地に投資して、しかもその土地で自分の関連事業を興す。
夢の事業のはじまりだ、と思いました。
さて、問題は、資金です。
社長の会社は、母親の会長が資金管理を行っています。
仲間を増やし、一生懸命に働く息子は自慢の息子ですが、人の良い面だけを見る、もっと言えば、儲かる話をする人に引かれる傾向を、シビアに見つめていました。
事業を失敗させないためには、資金のシビアさが大事。
それには、嫁さんだ!
頭のいい、計算が出来る嫁さんを持たせて、資金管理させなきゃ!
母親の会長はお嫁さんに言いました。
「印鑑だけは、社長に渡してはいけませんよ。印鑑は資金決済するあなたが持つものです。資金が減る事になったら、それは、責任がありますからね。」
会社の資金はもとより、自分の通帳も経理担当のお嫁さんが保管です。
社長の財布には毎月50万円!
充分入れてくれますが、さすがに、1600万円キャッシュで入れてくれとはいえません。
事業計画をちょっとはなしてみたけれど、嫁さんは、
「あのお金儲けの凄くうまい先輩が、自分だけで投資しないなんて、なにか問題ある事業じゃないですか?」
しゃーない、自分で工面だ。
ゴルフ仲間の税理士さんに話したら、銀行に話をしてくれた。
事業を始めたときは借入が難しかったが、今は借入もすぐ実行できました。
社長には土地があります。
土地が担保だと銀行からの借り入れは容易になります。
土地が担保物件となるため、返済可能性があがり信用が出来るからです。
資金を貸す銀行にとって担保は大切な要件です。
さて、共同事業者が始まりました。
4人そろって、資金を持って土地を購入しました。
ところが、その土地には問題があり、なかなか事業を開始できません。
所轄の県庁担当者から、その土地では事業が出来ないと通告を受けたのは2ヶ月後。
借入の返済は始まっています。
毎月の元金に利息をあわせると、嫁さんが財布に入れてくれる資金では間に合いません。
「オイ、今月はもう少し必要だ。」
「税理士さんに報告するため、領収書と交換です。領収書が無いと私が叱られます。」
「商売には見せられないカネも必要なんだよ!」
怒鳴ってみても仕方がないのに、イライラするから声が荒くなります。
先輩達はどうなっているんだ?と聞いて見たら、みな自分の手持ち資金です。
みんなは、借り入れしてないから、落ち着いていられるんだ!
イエイエ、彼らも落ち着いていられません。
弁護士をみつけ、元の土地所有者に、瑕疵のあった土地の売買契約解除を申し入れしました。
前金を支払って相談した弁護士は、資金の回収をし、かかった費用を差し引いて、残金を4人に送金してくれました。
大きな送金額がはいり残金の精算が行われた通帳をみて、嫁さんは言いました。
「良かったね、これで寝られるようになるよ。」
借入の不安で、寝られない様子はお見通し、社長の体調を心配していたのです。
寝られなければ集中力なし、仕事も満足なものになりません。
社員との会話が上の空になれば、社長の言葉は社員に届きません。
しだいに売上がさがります。
「カネさえあれば、成功できる、と思っていたのですよ。銀行が貸してくれたから。銀行が貸すとは、この事業が、認められたと思った。でも、違ったんだな。」
銀行がお金を貸し出すと、「事業が認められて借入が出来た」と勘違いしてしまう社長さんがいます。
銀行に表彰されたビジネスモデルを実行して30店舗目で倒産した、などという事例もあります。
銀行が資金貸出をする必要条件は、回収できるかどうかにあります。
回収できる判断は、売上が上がる、利益が出る、設備投資の回収期間に応じるなど、お金のルールに従っているかどうかです。
担保物件があって、その貸付に相応する評価額がある場合には、回収の可能性が上がります。
社長が安定した企業のオーナーで、土地の保有がある、これは貸付の十分条件です。
「銀行のゴルフ会で、支店長に、『すぐ借入できますよ』なんて持ち上げられると、のぼっちゃうんだよね。小さかったときは、振り向いてもくれなかったから。
商売をしたいと思って相談したら、『おまえなんかに大きな土地なんか無理だよ!』
土地を持たない、資産がないというのは、本当に悲しかった。」
お金を儲けたいのは、自分の家族を守りたいからです。
土地に投資したいのは、バカにされた過去からの決別のためです。
「特に土地はね。お袋や女房に出資してもらえる土地かどうか、考えないとね。」
同族会社の出資者は、堅い堅い定期預金信奉者です。
その堅い定期預金信奉者が、個人名義の定期預金を崩しても出資する、購入した方がよいと思ってもらえる物件で勝負するのが本筋です。
社長は、新事業・新規購入物件は、必ず4人に相談するルールを決めました。
事業で成功している優秀な経営者に、頭を下げて聞きに行くと決めました。
4人の相談者からそれぞれの判断を聞いて、最終は自分の資金と相談です。
まず、自分が手元の資金をはたいてでも投資したいと思える事業か?物件か?
土地であれ、商品であれ、投資出来る資金は、手もとの資金と得られる利益の2つの資金の中間で判断していくものです。
実績を積まないと、同族の賛同を得られない。
安直に手元資金を銀行借入に頼るのは、不眠のもと、強いては売上不振のもと。
社長は、同族の賛同を得る実績とシナリオを、日々車の中で、錬っています。
もちろん、社長の手元には、資金が貯まっていきましたよ。
額?それは、いえませんよ。財布の中身を知っているノグチの守秘義務です。
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