「今週の一言(いちげん)」第37話昔からのことわざ 給与の3倍働けば一人前とは、労働分配率が33.3%の超優秀な社員にならなきゃいけないってこと?
「この業種は労働分配率が、だいたい40%だとコンサルタントの先生から聞いたので、売上目標は、労働分配率で給与を割り返した数字にしています。かなり難易度が高いので、その8割いけば、マーマーかな。」
財務担当者は、毎月詳細な経営資料を作成して、社長に報告しています。
内容は、当月実績・前月実績・前年同月実績売上金額に加え、人件費・賃貸費用など大口の経費に労働分配率・労働分配率から割り出した目標売上と、盛りだくさん。
さて、不思議だな~と思った数字は、目標売上です。
目標売上が、当月実績の1.38倍です。
当月実績でも、稼働率からみると70%は達成しています。
なぜ、そこまで高い目標を定めたのか?
社長さんに聞いた答えが、上記の「会話」です。
財務省が提供している「法人企業統計調査」2012年でも
資本金1億円未満 79.5%
資本金1~10億円未満 70.5%
資本金10億円以上 60.5%
労働分配率は、付加価値の8割から6割です。
規模が小さい=利益額が小さい企業ほど労働分配率は高くなる傾向がみえます。
ではなぜこの会社で、40%という数字が出てきたのでしょうか?
そこには、「労働分配率」に掛かる定義の違いと、人件費に対する思いの違いが、重なりあっていました。
労働分配率は、いくつもの定義があります。
1.労働分配率=人件費÷付加価値(人件費+経常利益+減価償却費+支払利息)
2.労働分配率=人件費÷付加価値(人件費+営業利益+租税公課+支払利息+賃借料)
3.労働分配率=人件費÷粗利
付加価値の定義が違えば、当然 率も違います。
分母が粗利の場合もあります。
労働比率の高い業態か、卸売業のように粗利率がひくい業態かなど、業態の違いは労働分配率の計算式を変えます。
要は、実態に合った計算式を使うことが大事です
会社に多くの利益を残すのがイイと考えれば、労働分配率は低ければ低い方がイイのですが、労働比率の高い企業の場合、会社が労働比率を低く抑えて給与やボーナスの支払をケチると、それはそれで大きな問題となります。
人材確保ができなければ、売上はあがりません。
一番計算がしやすい、3.労働分配率=人件費÷粗利をつかって見てみましょう。
労働分配率40%の場合
粗利25%としてその4割が人件費、その他費用が2割、本社経費を1割と計算しますと、経常利益は7.5%、利益が出る構造です。
売上高100-仕入75=粗利25
粗利25-人件費25×4割-その他経費25×2割–本社経費25×1割=経常利益7.5
会社に十分な利益があれば、ボーナスも支払ができます。
労働分配率60%の場合
粗利25%としてその6割が人件費、その他費用が2割、本社経費を1割と計算しますと、経常利益は2.5%、納税額をひねり出せるかどうかの利益です。
売上高100-仕入75=粗利25
粗利25-人件費25×6割-その他経費25×2割–本社経費25×1割=経常利益2.5
労働比率の高い業種は、粗利益率自体が高いので、労働分配率は高くても、経営状況は良好という場合が多いのです。
この会社は、労働比率の高い業種です。粗利益率はほぼ90%
この粗利益率で労働分配率60%としても経常利益は十分見込めるハズです。
ですが、ボーナスを支払う月は、労働分配率が80%に上昇していました。
どうやら、コンサルタントの大先生は、人件費の抑制を考えた経営をすべきだ!と伝えたくて「昔から給与の3倍働くのが、一人前なんだ!」論を提唱していたようです。
それに対して、社長さんは、事業を拡大したい。
事業拡大に必要な人材を囲い込むのは、投資と同じ。
人件費は前倒しに発生するのは致し方ない、当然の成り行きだ!
社長さんとコンサルタントの大先生が合致したのは、「売上が上がれば全て解決」
労働分配率から割り出した目標売上を設定しよう。
では、理想の労働分配率は?
そうだ、3割よりも低いけど、5割よりはいい、4割だ!
かくして、経営資料の最終目標欄に、労働分配率40%で計算した目標売上が掲げられました。
売上の目標は、上から提案してもなかなか実現しません。
従業員の側から考えれば、ボーナスをもらうことは、当初から暗黙の約束になっていますが、その分の売上を上げることは約束していないのです。
こういうときは、具体的な数字が一番大切です。
今の売上から、現実にいくら売上を上げれば、ボーナスが出るのか?
ボーナス時に80%にもなってしまった労働分配率を60%に抑えるには、粗利益は、売上は、いくらにすればいいでしょう?
80%÷60%=1.3333…倍の利益が必要です。
粗利率90%ですから 必要な売上は、現在の売上を100とすれば
粗利90×1.3333÷90%=134の売上が必要だと分かります。
ボーナス時は、前年同月よりも34%売上をアップする方法を皆で考えましょう。
決して無理ではありません。キャンペーンや、チケット販売いろいろできます。
具体的な数字に落としてみると、ただ売上あげろ!の労働強化策ではなく継続雇用のために提案する労働分配率になります。
労働分配率から売上を考えることは、経営の本当のツボになります。