「今週の一言(いちげん)」第256話一週間後に戻ってきたいと思わせる店。
Fromノグチ
古風だけどかなり強力な“お客様と友達になる”方法です。私の母の話です。
実家のコメ酒を扱う雑貨店は、食卓に人がたくさんいる家でした。
家族は祖母と両親に子供が3人、住み込みでお店を手伝う女性が3人。
普通に数えれば、食卓に並ぶ人は9人のはずなのに、食事時はなぜか12人~15人が一緒に食事をしているのです。
大きな家ではございません。食卓の席には限りあり。食材だって、限りあり。
食べる人が一人増えるごとに、末席の子供たちは下座へ下座へと押し出されます。美味しい脂ののったサケの切り身だって、目の前から消えてしまいます。
私のおかずだ!と皿を取りに行こうものなら、
「早く食べ終わりなさい。飯が遅いものは仕事も遅い!」
と母の小言が飛んできます。美味しいおかずも来客優先です。
家族6人なのに食卓に15人座る理由
なぜ、ご飯時に人がふえるか?
それは、父も母も祖母も、会う人会う人に同じ言葉をまるで口癖のように言うからです。
「(我が家の茶の間に)上がってご飯食べるくらいの時間があるでしょう。それとも、うちのご飯まずいって言うの(笑)」
家族のように食事をする関係が数年続くと、母とお客さんたちは電話口でこんな会話をするようになります。
「友達が来ました。母さん、これから行くのでご飯食べさせてくれる?」
「いいですよ。何人前ですか?」
食堂じゃあるまいし、お客さんめがけて食事を作るなんて、ウチの母親どうかしているんじゃないのかしらん。
「いいんだよ。うちのご飯がおいしいって思ってもらえれば。ここで私たちと一緒に食べたご飯が一番おいしいと、思ってもらえれば。
この先一週間、他を回ってみてこの家にもう一度来たいな、って思ったらそれが本当のお客さんになるんだから」
(全部が全部そうなるの?(お客様になるわけないでしょう…))
「こっちから出す。やるからお返しをしてくれる。どんな人も皆、やるからお返しをしてくれるの。やらないでお返しだけ欲しいは、ない。」
一週間後には、戻ってきてほしい。
ロバート・チャルディーニ博士の著書「影響力の武器」の第一番目が、「返報性」のルールです。返報性のルールは、人間社会の基本となる強力なルールだと博士は説いています。
人は何かをしてもらったら、将来お返しをすることが義務づけられています。お返しが義務づけられているので、人は自分が何かを与えてもそれが決して失われないと確信ができるのです。
私の母が勉強してこのルールを知って、活用したわけではありません。
家の前を通りかかった旅人に「ご飯を一緒に食べましょう」と門を開き家に招き入れるのは、地方の町のごくごく普通の行為です。
とは言え、相手が望みもしない好意を無理やり与えていたら、いくら返報性のルールが強いといっても、一週間後に戻ってきたい場所にはならないはずです。
―ノグチ
P.S.
断ったら悪い…、とおもうのが、返報性の法則です。
母の「私のご飯を食べさせたい」は、返報性というよりは、脅迫の行為になるのではないか?少々心配になっております。